正則関数列

第5章「等角写像としての正則関数」に入る。
記号 \displaystyle \cal{H}(D)で領域D上の正則関数全体の集合を表す。これは\mathbb{C}上の多元環(ベクトル空間でさらに乗法を持ち、乗法に関して結合法則、加法と乗法の間の分配法則が成り立つ)をなす。


定理5.1(p102)

 \displaystyle \cal{H}(D)の関数列 (f_n)がDで広義一様収束すれば、
(1) \mathrm{lim} f_n = fもDで正則で、
(2) (f'_n)もDで f'に広義一様収束する。

(1)の証明:
領域D内の任意の閉三角形Δの辺 \partial\Deltaはコンパクト。
仮定より (f_n)はD内の任意のコンパクト集合上で一様収束するので、 \partial\Delta上でも一様収束する。
 f_nはDで正則であるからCauchyの積分定理により
 \displaystyle \int_{\partial\Delta}f_n(z)dz = 0
 (f_n) \partial\Delta上で一様収束するので極限と積分の交換が可能で、
 \displaystyle \begin{eqnarray} \int_{\partial\Delta}f(z)dz &= &\int_{\partial\Delta}\(\mathrm{lim}_{n\rightarrow\infty}f_n(z)\)dz \\ &=& \mathrm{lim}_{n\rightarrow\infty} \int_{\partial\Delta}f_n(z)dz = 0 \end{eqnarray}
よってMoreraの定理から f は Dで正則(証明終)。


(2)の証明:
こちらは微妙に理解不足のところがあってひっかかっている。
Cauchyの積分表示が成立する範囲の復習が必要だ。
領域Dに含まれる任意の閉円板D(a;\rho)=\{z\in\mathbb{C};|z-a|\le\rho\}に対し、0\lt r \lt \rhoを満たす任意のrをとる。
仮定より各f_nはDで正則だから、|z-a|\lt r内の任意の点zに対して
\displaystyle f_n(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_{\gamma}\frac{f_n(\zeta)}{\zeta-z}d\zeta
が成り立つ(Cauchyの積分表示。ただしγは|z-a|=rの円周)。
これから|z-a|\lt rのとき、
\displaystyle f_n'(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_{\gamma}\frac{f_n(\zeta)}{(\zeta-z)^2}d\zeta
が成り立つ。いま(f_n)がDで広義一様収束しているから、Dに含まれるコンパクト集合D(a;\rho)上で(f_n) fに一様収束する。ゆえに
\displaystyle \mathrm{lim} f_n'(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_{\gamma}\frac{\mathrm{lim} f_n(\zeta)}{(\zeta-z)^2}d\zeta = \frac{1}{2\pi i}\int_{\gamma}\frac{f(\zeta)}{(\zeta-z)^2}d\zeta = f'(z)
これはD(a;\rho)上で成立するが、次にD全体で一様にこの収束が成立することを示さないといけない。


さて、Dに含まれる任意のコンパクト集合Eをとり、Eの各点aに対してD(a;r_a)\subset Dとなる閉円板D(a;r_a)をとると、それらの内部 D^{\circ}(a;r_a)をE全体に渡ってとったもの\displaystyle \{D^{\circ}(a;r_a)| a\in E\}はEの開被覆となる。Eはコンパクトだからこのうちの有限個で覆うことができる。この有限被覆を\displaystyle \{D^{\circ}(a;r_k)| k=1,\cdots,m}とする。
\displaystyle D^{\circ}(a;r_k)に対して\displaystyle D(a;\frac{r_k}{2}) \subset D^{\circ}(a;r_k)であるので、上の方で確認した結果より、各\displaystyle D(a;\frac{r_k}{2})上ではf'_nf'に一様収束している。すなわち∀ε>0に対し zに依存しないN_kがあり、
 \displaystyle n\gt N_k \Rightarrow |f'_n - f'|\lt\varepsilon
そこで N = max_{k=1,\cdots,m}とすれば、∀z∈E に対し
 \displaystyle n\gt N \Rightarrow |f'_n - f'|\lt\varepsilon
となりNはzに依存しない。したがって、 (f'_n)はD上 f'に広義一様収束することが示された(証明終)。