偏角の原理

留数定理の応用としての練習問題が載っている(p90,問8)。
問8 (i)

 D = \{z\in \mathbb{C}; \|z-a\|\lt\rho\}とする。
aがfのm位の零点のとき、 \frac{f'}{f}はDで有理型で、aを1位の極として持ち、
 \displaystyle Res(\frac{f'}{f};a)=m

aの近傍において正則な関数gが存在して
\displaystyle f(z)=(z-a)^m g(z)
と書けて
\displaystyle f'(z)=m(z-a)^{m-1} g(z) + (z-a)^m g'(z) = (z-a)^{m-1}\{m g(z)+(z-a)g'(z)\}
よって
\displaystyle \frac{f'(z)}{f(z)}=\frac{m g(z)+(z-a)g'(z)}{(z-a)g(z)}=\frac{m}{z-a}+\frac{g'(z)}{g(z)}
gはaの近傍で正則だから\frac{g'}{g}も正則。よって
 \displaystyle Res(\frac{f'}{f};a)=m


問8 (ii)

 D = \{z\in \mathbb{C}; \|z-a\|\lt\rho\}とする。
aがfのm位の極のとき、 \frac{f'}{f}はDで有理型で、aを1位の極として持ち、
 \displaystyle Res(\frac{f'}{f};a)=-m

fをm位の極aのまわりでローラン展開すると
\displaystyle \begin{eqnarray} f(z)&=&\sum_{k=-m}^{\infty}b_k(z-a)^k \\ &=& (z-a)^{-m} \sum_{k=-m}^{\infty}b_k(z-a)^{k+m} & \(b_{-m} \neq 0\) \\ &=& (z-a)^{-m}g(z) \end{eqnarray}
と書ける。gはaの近傍で正則。
\displaystyle f'(z) = -m(z-a)^{-m-1}g(z) + (z-a){-m}g'(z) = (z-a)^{-m}\{\frac{-m}{z-a}g(z)+g'(z)\}
ゆえに
\displaystyle \frac{f'(z)}{f(z)}=\frac{-m}{z-a}+\frac{g'(z)}{g(z)}
gはaの近傍で正則だから\frac{g'}{g}も正則。よって
 \displaystyle Res(\frac{f'}{f};a)=-m

偏角の原理

開集合Dで正則で定数でない関数f と D内で0にホモロジー同値な回路γが与えられており、γはfの零点を通らないとする。このとき、
fの零点a で Ind(\gamma;a)\neq 0となるものは高々有限個で、その位数をμ(a)とすれば、
\displaystyle \frac{1}{2\pi i}\int_{\gamma}\frac{f'(z)}{f(z)}dz = \sum_{f(a)=0}Ind(\gamma;a)\mu(a)

γはD内のコンパクト集合。よってfの零点でγに関する0でない回転数をもつものは高々有限個(by定理2.7およびその系。これが成立するためにfを定数でないと仮定している)。この0でない回転数をもつfの零点をa_1,\cdots,a_mとする。各a_kについてその位数は\mu(a_k)で、問8(i)より、
 \displaystyle Res(\frac{f'}{f};a_k)=\mu(a_k)
である。よって留数定理より
 \displaystyle \begin{eqnarray}\int_{\gamma}\frac{f'}{f}&=&2\pi i\sum_{k=1}^{m}\(Ind(\gamma;a_k) Res(\frac{f'}{f};a_k)\)\\ &=& 2\pi i\sum_{k=1}^{m}\(Ind(\gamma;a_k) \mu(a_k)\)\end{eqnarray}


 \displaystyle \int_{\gamma}\frac{f'(z)}{f(z)}dz = \int_{\gamma} d log f(z)
と書ける。
 \displaystyle log f(z)=log|f(z)|+i arg f(z)
なので、回路γを一周したとき上の積分値は i(arg f(\gamma(1)) - arg f(\gamma(0))となる。(γのパラメータ範囲を0〜1とした)よって
\displaystyle arg f(\gamma(1))-arg f(\gamma(0))=2\pi\sum_{k=1}^{m}\(Ind(\gamma;a_k) \mu(a_k)\)
したがって関数fによりz平面上の回路γをw平面上に写したとき、z平面上でγを一周する積分は w平面上ではf(z)の偏角の増分となって、その値がfの零点の位数と回転数で決まる。それでこの定理に偏角の原理という名前がついているという。