逆写像定理

続いて§2「写像としての正則関数」(p109〜116)に入る。この§ではD上の正則関数をDからf(D)への写像としてみたときの性質が調べられるようでおもしろそうだ。


最初は逆写像定理。可微分多様体におけるC^r写像逆関数定理と感じが似ている。

領域Dで定義された正則関数 w=f(z) が与えられたとする。
\displaystyle w_0=f(z_0), f'(z_0)\neq 0
であれば、z_0の十分小さい近傍Uと w_0の十分小さな近傍Vを適当に選べば、fはUからVへの全単射で、その逆写像g は Vで正則となる。
しかも
\displaystyle g'(w)=\frac{1}{f'(z)}
となる。

z_0は正則関数 f(z)-w_0の零点。f'(z_0)\neq 0だから1位の零点である。
z_0を中心ととした十分小さい半径rの円周γは内部にz_0以外の零点をもたないから、関数 f(z)-w_0偏角の原理を適用すると、
\displaystyle \frac{1}{2\pi i} \int_{\gamma} \frac{f'(z)}{f(z)-w_0}dz = 1
となる。
ここで
\displaystyle I(w) = \frac{1}{2\pi i} \int_{\gamma} \frac{f'(z)}{f(z)-w}dz
とおいてみる。
γの半径は十分小さくとったので、この上にf(z)-w_0の零点はないので、w_0=f(z_0) \Gamma=f(\gamma)上にはない。よってw_0の近傍VをΓに重ならない程度に小さくとれば、∀w∈V に対しf(z)=wとなるγ上の点zは存在しないのでγ上で常に f(z)≠w となる。これから、上で定義したI(w) はV上で定義できる。
I(w)はV上で連続であって、しかも整数値しかとれない(関数F(z)=f(z)-wの零点のγ内の数だから整数しかとれぬ)。
I(w_0)=1だから、V上で恒等的に1。よって、∀w∈V に対しf(z)=wとなるγ内の点z はただ一つに決まる。そこでwとこのzを対応させることにより、 U=f^{-1}(V)として、z_0の近傍Uからw_0の近傍V上への全単射 f が定義できる。
これで全単射  f:U \to Vを作ることができた。fはDにおける正則関数であるが、この逆g=f^{-1}もVにおいて正則であることを次に示さないといけない。まずgが連続であることを示す。Uの任意の点aをとりf(a)=bとすると、aを中心とする十分小さい半径εの開円板の円周γは fによりΓ=f(γ)⊂V に写される。このときbはΓ上になくΓはγがaを廻るのと同じ方向にbを廻る。十分小さいδ>0をとればD(b;δ)⊂Γの内部とできるから、f(D(a;ε))はVの開集合となる。よってg=f^{-1}は Vで連続である。


gがVで正則で
\displaystyle g'(w)=\frac{1}{f'(z)}
となることは、f,gによりU,Vが両連続1:1に対応することから得られる。
w=f(z),z=g(w)とする。大きさの十分小さいkに対し w+k∈V となる。
g(w+k)-g(w)=h とすると、g(w+k)=g(w)+h=z+h。両辺をfで写すと w+k=f(z+h)より f(z+h)-f(z)=k である。hが0に近づくときkも0に近づく。よって
\displaystyle lim_{k\to 0}\frac{g(w+k)-g(w)}{k}=lim_{h\to 0}\frac{h}{f(z+h)-f(z)}=lim_{h\to 0}\frac{1}{\frac{f(z+h)-f(z)}{k}}=\frac{1}{f'(z)}


偏角の原理を使うと、多様体のときの証明に比べてはるかに簡単に証明できる。