§3.1つづき

ヒルベルトの基底定理

テキストの証明法のギャップが埋まらず、仕方なく図書館で見つけた「代数学」(松村英之、朝倉書店)の証明を追う。証明のフォローは完了。たぶん本質的には同じ証明法だと思う。

根基(radigal)の定義

可換環AのJacobson根基、ベキ零根基、イデアルI⊂Aの根基の定義。

Jacobson根基:Aのすべての極大イデアルの交わり。Rad(A)と書く。

ベキ零根基:Aのすべての素イデアルの交わり。\mathfrak{N}(A)と書く。

AイデアルIの根基:Iを含むすべての素イデアルの交わり。 \sqrt{I}と書く。

根基の特徴付け

可換環Aに対し、

(1)  \displaystyle a \in Rad(A) \Leftrightarrow \forall x \in A, 1-ax \in U(A)

(2)  \displaystyle a \in \mathfrak{N}(A) \Leftrightarrow aはベキ零

(3)  \displaystyle a \in \sqrt{I} \Leftrightarrow \exists n > 0, a^n \in I

局所環

§3.1の最後は局所環。その定義は、

極大イデアルを唯一つ持つ環を、局所環(local ring)という。

これだけだと意味がさっぱりわからないが、リーマン面の方でおなじみだったものを抽象化したものだということがわかる例がある。
それはリーマン面上の点Pにおける正則関数の芽の集合 A_Pである。
 A_Pの元は点Pの近傍Uとその上の正則関数fの組  (f,U)で表される。A_Pに和と積を以下で定義する。

 (f,U), (g,W) \in A_Pに対し、

 \displaystyle (f,U)+(g,W) =_{\rm{def}} (f+g, U \cap W)
 \displaystyle (f,U)\cdot(g,W) =_{\rm{def}}  (fg, U \cap W)

これによりA_Pは環となる。
そして、環A_Pは以下のような唯一の極大イデアル \mathfrak{m}を持ち、局所環となる。

 f(P)=0を満たす(f,U) \in A_P全体の集合を \mathfrak{m}とする。

 \mathfrak{m}が極大イデアルであることは、以下のような準同型\varphiからわかる:

 \displaystyle \begin{array}{cccc} \varphi &: & A_P & \to & \mathbb{C} \\ & & (f,U) & \mapsto & f(P) \end{array}

 \mathfrak{m}の定義から \rm{ker}\varphi = \mathfrak{m}となり、また\varphi全射だから準同型定理により

 \displaystyle A_P/\mathfrak{m} \simeq \mathbb{C}

となる。 \mathbb{C}は体だから  \mathfrak{m}が極大イデアルとなる。
唯一性も容易に示せる。


以上で§3.1読了。

楕円関数体とペー関数(2)

 \Omega := \(\omega_1,\omega_2\) を周期とする楕円関数全体の集合をK(\Omega)と書き、楕円関数体という。K(\Omega)は複素トーラス\mathbb{C}/\Omega上の有理関数全体のなす体である。

定理2.10 で以下が証明される:

\Omegaを周期とする任意の楕円関数f(u)は、\wp(u)の有理式F(\wp(u)),G(\wp(u))が存在して、

 \displaystyle f(u) = F(\wp(u))+G(\wp(u)) \wp'(u)

と書ける。

これから

 \displaystyle K(\Omega) = \mathbb{C}(\wp(u),\wp'(u))

 \wp関数に関しては、微分方程式

 \displaystyle \wp'(u)^2 = \wp(u)^3 - g_2 \wp(u) - g_3

が成立していた。
これを用いると、 \mathbb{C}(\wp(u),\wp'(u)) は体 \mathbb{C}(\wp(u)) の2次拡大体であることがわかる。
多項式 y^2 - x^3 + g_2 x + g_3は既約であることから、体 \mathbb{C}(\wp(u),\wp'(u))は、整域
 \displaystyle \mathbb{C}[x,y]/(y^2 - x^3 + g_2 x + g_3)
の商体となる。

一方、本書の付録Hによると、既約多項式
 \displaystyle C: (y^2 - x^3 + g_2 x + g_3 = 0)
で定義される代数曲線 Cの有理関数体 \mathbb{C}(C)
 \displaystyle \mathbb{C}[x,y]/(y^2 - x^3 + g_2 x + g_3)の商体
に等しい。
(既約多項式 y^2 - x^3 + g_2 x + g_3 で生成される\mathbb{C}[x,y]イデアル (y^2 - x^3 + g_2 x + g_3)は素イデアルであり、従って \mathbb{C}[x,y]/(y^2 - x^3 + g_2 x + g_3) は整域となる。これを代数曲線 Cの座標環という。この座標環の商体を代数曲線 Cの有理関数体 \mathbb{C}(C)という。)


そこで

 \displaystyle K(\Omega) \simeq \mathbb{C}(C)

となる。これは「解析的なもの」と「代数的なもの」が一致するということを示すもので、GAGAの原理と呼ばれるものの、最も簡単な場合の具体例であるとのことである。


この後、楕円関数の\wp(u),\wp'(u)に表示の具体例として、 \wp^{(n)}(u)(\wp関数の任意回数の微分)、および \wp(2u)の表示( \wp関数の2倍公式) が示されて、§2.5読了。

Weierstrassのζ関数

§2.6「Weierstrassの\zeta関数」

Weierstrassの\zeta関数は

 \displaystyle \zeta(u):= \frac{1}{u} + {\sum}'\(\frac{1}{u-\omega}+\frac{1}{\omega}+\frac{u}{\omega^2}\)

と定義され、

 \displaystyle \zeta'(u) = -\wp(u)

を満たしていた。
この関数の擬周期性

 \displaystyle \zeta(u+m\omega_1+\omega_2) = \zeta(u)+m\eta_1+n\eta_2

が示された。

さらに周期平行四辺形の周上で \zeta(u)を一周積分することにより、Legendreの関係式

 \displaystyle 2\pi\sqrt{-1} = \eta_1\omega_2 + \eta_2\omega_1

が示された。

以上で§2.6読了。

§2.7「\zeta関数による楕円関数の表示」

任意の楕円関数\varphi(u)は、\zeta関数を用いて以下のように表示できる:

 \displaystyle \varphi(u) = c_0 + \sum_{i=1}^{r}c_i\zeta(u-a_i)

ただし周期平行四辺形上の\varphi(u)の極をa_1,\cdots,a_r、それぞれの極での留数をc_1,\cdots,c_rとする。