複素接ベクトル空間

X をリーマン面とし、P ∈ X とする。以下 X と P を固定する。
f を Pの近傍 V で定義された複素数 C^{\infty}級関数とする。
そして C^{\infty}級関数 f とその定義域のセット
 \displaystyle \(f, V\)
を考える。このような  C^{\infty}級関数とその定義域の対全体の集合を考え、それを  \cal{A} という記号で表す。
 \cal{A}の2つの元
 \displaystyle \(f_1, U_1\), \(f_2, U_2\) \in \cal{A}
をとる。
P のある近傍 V が存在して、 V \subset U_1 \cap U_2 であり  f_1|_{V} = f_2|_{V} となるとき、 \(f_1, U_1\), \(f_2, U_2\) は同値であるという。この同値関係〜 に関する  \cal{A} の商集合  \cal{A}/{\sim}
 \displaystyle \cal{A}^{0}_{X,P}
という記号で表し、 \cal{A}^{0}_{X,P} の元を P における C^{\infty}級関数の芽と呼ぶ。


 C^{\infty}微分可能多様体のときと同じように リーマン面X の点 P における複素接ベクトル空間が定義できる。
すなわち、P での微分作用素全体の集合を
 \tilde{T}_{X}(P)
と書き、X の点 P における複素接ベクトル空間という。

P での微分作用素とは、 \cal{A}^{0}_{X,P} 上の複素数値関数
 \displaystyle v: \cal{A}^{0}_{X,P} \to \mathbb{C}
であって、以下の(1)(2)を満たすものとして定義される。
(1)  v(af+bg) = a v(f)+b v(g) (線形性)
(2)  v(f g) = f(P) v(g)+ v(f)g(P) (ライプニッツ則)
上で、a,b は任意の複素数、f,g は任意の  C^{\infty}級関数の芽について成立するものとする。


 C^{\infty}微分可能多様体のときと同様に、 \tilde{T}_{X}(P) の基底として、
 \displaystyle \( \frac{\partial}{\partial x} \)_{P}, \( \frac{\partial}{\partial y} \)_{P}
が取れることが簡単に確かめられる。
(ただし Pのまわりの局所座標を z としたとき  z = x + \sqrt{-1} y とする)

余接ベクトル空間

さらに C^{\infty}微分可能多様体のときと同様に、接ベクトル空間の双対空間を余接ベクトル空間という。すなわち、リーマン面 X の点P における複素接ベクトル空間  \tilde{T}_{X}(P) に対し、その双対空間
 \tilde{T}^{*}_{X}(P) := Hom_{\mathbb{C}}\(\tilde{T}_{X}(P), \mathbb{C}\)
のことを リーマン面 X の点P における複素余接ベクトル空間という。

 \tilde{T}_{X}(P)の基底 \( \frac{\partial}{\partial x} \)_{P}, \( \frac{\partial}{\partial y} \)_{P} の双対基底を
 \(dx\)_P, \(dy\)_P
と書く。これは \tilde{T}^{*}_{X}(P)の基底をなす。


Pの近傍で定義された C^{\infty}級関数f が与えられたとき、f は以下のような  \tilde{T}_{X}(P)上から\mathbb{C}への写像を定める。
 \tilde{T}_{X}(P) \ni v \mapsto v\([f]\) \in \mathbb{C}
この写像を P における f の外微分、もしくは全微分といい、 \(df\)_Pと書く。


fの外微分に関し以下が成り立つ。

 \displaystyle \(df\)_P = \frac{\partial f}{\partial x}\(P\) \(dx\)_P + \frac{\partial f}{\partial y}\(P\) \(dy\)_P


このあたりまでは「多様体の基礎」の復習になる。