複素直線束の場合 - はじめての層係数コホモロジー

階数1の複素ベクトル束、すなわち複素直線束の場合には、同値なものがどのくらいあるのか簡単にわかるという。
すなわち、M上の C^{\infty}級複素直線束の全体はAbel群をなし、それは群として  H^2(M, \mathbb{Z})すなわちMの2次の整係数コホモロジー群と同型なのだそうだ。
その証明の第一段階として、与えられた複素直線束の変換関数 \{f_{\alpha\beta}\} は M の局所有限な開被覆 \cal{U} = \{U_{\alpha}\}上の 1-cocycle であって、2つの変換関数がコホモローグであることと、2つの変換関数が同値な複素直線束を与えることが同値であることを確認する。

さらに証明の中で、層と層係数コホモロジーという概念が出てくるが、見よう見まねで使ってみることにする。

 \cal{F}位相空間X上の層であるとは、次のようなものらしい。
すなわち、X の任意の開集合  U,V,W,\cdotsに対して、Abel群、環、ベクトル空間など、ある構造を持った数学的対象を対応させるようなもので、ある性質を満たすものである。
たとえば \cal{F} が X 上の Abel群の層であるなら、Xの開集合
 \displaystyle U, V, W, \cdots
に対応して、Abel群
 \displaystyle \cal{F}(U), \cal{F}(V), \cal{F}(W), \cdots
が定まる。 U \supset V \supset W という包含関係にあったとしたとき、これらを包含写像 iで並べた列
 \displaystyle W \to^{i} V \to^{i} U
ができるが、これに対応して、
 \displaystyle \cal{F}(U) \to^{r_{VU}} \cal{F}(V) \to^{r_{WV}} \cal{F}(W)
と表される Abel群の準同型の列が定まる。
 \cal{F}は、まずこのような「集合の圏」から「Abel群の圏」への反変関手としての性質をまず持つ。
さらに上の r_{UV}等は制限写像と呼ばれあるルールを満たさなければならない。ここまでを満たすものを前層という。
前層が層と呼ばれるようになるには、さらに 2つの条件を満たさなければならない。Xの開集合Uの任意の開被覆 \{U_{\alpha}\}_{\alpha \in A} を与えたときに成立すべき条件で、1つはすべての U_{\alpha}上で一致する切断は一致するということ。もう1つは、すべての \alpha \in Aに対して U_{\alpha}で定義された切断があったらそれらを繋ぎ合わせて大域切断を作れること。この2つが、局所と大局を結ぶ大事な性質のようだ。


当面、上の  \cal{F}(U) は U上のある性質を満たす関数空間などをイメージしておけば、大きな間違いはなさそうな感じである。これから登場する層は 3つあって、

  • 整数の定数層  \mathbb{Z}
  • M上の正則関数(の芽)の層  \cal{O}
  • M上の決して0をとらない正則関数(の芽)の層  \cal{O}^*

2つの関数がある(どんな小さくてもよい)開近傍上で一致すればそれを同値とみなす。そのとき関数の同値類を芽という。複素解析でやった一致の定理をイメージするとわかりやすいかもしれない。
さらにあらかじめトポロジーでCechホモロジーを勉強しておくとわりとすんなり層とは何かがわかるような気がする。