射影空間(4)

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 R^{m+1} - {0} に以下で同値関係を定義する。
 \Large x \sim y \Leftrightarrow \exists \lambda \neq 0 (\lambda \in R) s.t. y = \lambda x
このとき射影空間  P^{m}
 \Large P^{m} = \(R^{m+1} - {0}\)/\sim
と定義することもできる。(こちらの定義の方が普通だそうである)
 x = \(x_1, \cdots, x_{m+1}\) \in R^{m+1} - {0} P^{m} の点と考えたものを
 \Large \(x_1:x_2: \cdots :x_{m+1}\)
という記号で表す。前にもどこかでこのような記号を見たことがあるが、これを連比というそうだ。
m = 1 なら算数で習う普通の比と思えばよいだろうか。
算数により、たとえば
 \Large \(1:2\) = \(2:4\) = \(x:2x\)
m = 2 になると、たとえば
 \Large \(1:2:3\) = \(2:4:6\) = \(x:2x:3x\)
この比が等しいものを同一視したものが  P^{m} の定義らしい。
射影空間の元は、前の定義だと原点を通る直線であるので、直線の傾きにより各元が区別できた。上の連比の値を傾きだと思えばよい。

写像  \pi: R^{m+1} - {0} \rightarrow P^{m}
 \Large \pi: (x_1,x_2,\cdots,x_{m+1}) \mapsto (x_1:x_2:\cdots:x_{m+1})
で定義する。この写像\piはonto。
 P^m\piによる商位相を入れると、この位相に関してハウスドルフ空間となる。
また V_i \subset P^m
 \Large V_i = \{ \(x_1:x_2:\cdots:x_{m+1}\)\| x_i \neq 0 \}
で定義する。
 V_i P^mの開集合であること、
 P^m = \cup_{i=1}^{m+1} V_i
であることはすぐに確かめられる。
この  P^mを覆う  V_iたちはそれぞれ  R^{m}と同相である。
その同相写像 \psi_i: V_i \rightarrow R^m は以下のようにして作ることができる。
 \Large \psi_i: (x_1:x_2:\cdots:x_{m+1}) \mapsto (\frac{x_1}{x_i},\frac{x_2}{x_i},\cdots,\frac{x_{i-1}}{x_i},\frac{x_{i+1}}{x_i},\cdots,\frac{x_{m+1}}{x_i})

 \Large (V_i, \psi_i)
 P^m C^{\infty}級座標近傍系となっていることを確かめてみる。
これが慣れないとどうも計算間違いしやすい。
i < j とし、
 \Large \bf{x} = (x_1:x_2:\cdots:x_i:\cdots:x_j:\cdots:x_{m+1}) \in V_i \cap V_j
とする。このとき  x_i \neq 0, x_j \neq 0である。
座標変換 \psi_j \circ \psi_i^{-1}: \psi_i(V_i \cap V_j) \rightarrow \psi_j(V_i \cap V_j) C^{\infty} であることを確かめたい。そこで、
 \Large (z_1,\cdots,z_m) = \psi_j \circ \psi_i^{-1}(y_1,\cdots,y_m)
の形を具体的に計算してみる。

 \psi_i の定義より、
 \Large \psi_i(y_1:\cdots:y_{i-1}:1:y_{i}:\cdots:y_{m}) = (y_1,\cdots,y_{i-1},y_{i},\cdots,y_{m})
となるので  \psi_i同相写像であることから、
 \Large \psi_i^{-1}(y_1,\cdots,y_m) = (y_1:\cdots:y_{i-1}:1:y_{i}:\cdots:y_{m})
が成り立つ。
 \Large (y_1:\cdots:y_{i-1}:1:y_{i}:\cdots:y_{m}) \in V_j
より  y_{j-1} \neq 0 である。途中に "1" が入っているので添え字が一つずれることに注意。
上を  \psi_jで写すと、j 番目には y_{j-1}があるので、
 \Large \psi_j(y_1:\cdots:y_{i-1}:1:y_{i}:\cdots:y_{m}) = (\frac{y_1}{y_{j-1}},\cdots,\frac{y_{i-1}}{y_{j-1}},\frac{1}{y_{j-1}},\frac{y_{i}}{y_{j-1}},\cdots,\frac{y_{j-2}}{y_{j-1}},\frac{y_j}{y_{j-1}},\cdots,\frac{y_m}{y_{j-1}})
となる。したがって座標変換の式は、
 \Large (z_1,\cdots,z_{m}) = (\frac{y_1}{y_{j-1}},\cdots,\frac{y_{i-1}}{y_{j-1}},\frac{1}{y_{j-1}},\frac{y_{i}}{y_{j-1}},\cdots,\frac{y_{j-2}}{y_{j-1}},\frac{y_j}{y_{j-1}},\cdots,\frac{y_m}{y_{j-1}})
と書けるので、 C^{\infty} であり、 P^{m} は m次元 C^{\infty}級可微分多様体であることがわかった。