はじめての層係数コホモロジー(5)

3日前の続き。


位相空間 M上の層 \cal{F}に対して、 \cal{F}を係数とするコホモロジー
 \displaystyle H^q(M, \cal{F})
を定義する準備として、 M開被覆 \cal{U} = \{U_i\}_{i\in I} に関するコホモロジー群を定義する。

 \cal{U}に関するコチェイン間に定義される写像
 \displaystyle \delta: C^{q}(\cal{U}, \cal{F}) \to C^{q+1}(\cal{U}, \cal{F})
をコバウンダリ作用素という。 \delta f \in C^{q}(\cal{U}, \cal{F})を以下のように写すものとして定義される。

 \displaystyle \delta f_{i_0 \cdots i_q} := \bigsum^{q}_{k=0} (-1)^{k} f_{i_0 \cdots \hat{i_k} \cdots i_q}|_{U_{i_0} \cap \cdots \cap \hat{U_{i_k}} \cap \cdots \cap U_{i_q} }


 \displaystyle C^{q}(\cal{U}, \cal{F})

 \displaystyle \delta: C^{q}(\cal{U}, \cal{F}) \to C^{q+1}(\cal{U}, \cal{F})
からコチェイン複体が作られる。 \delta \circ \delta = 0 などの証明は単体複体や特異複体の場合とほとんど同様。
そこでこの複体から定義されるコホモロジー


 \displaystyle H^{q}(\cal{U}, \cal{F}) := Z^{q}(\cal{U}, \cal{F})/B^{q}(\cal{U}, \cal{F})


で定義する。 Z^{q}(\cal{U}, \cal{F}), B^{q}(\cal{U}, \cal{F}) は特異コホモロジーの場合と同様、コサイクルとコバウンダリの集合。


上で定義した  H^{q}(\cal{U}, \cal{F})開被覆 \cal{U}の取り方に依存して決まるように見えるが、開被覆の細分を取り続けてドンドン細かくしていった極限(帰納的極限)として層係数コホモロジー群が定義できるそうである。


 \displaystyle  H^{q}(M, \cal{F}) := {lim}_{\rightarrow} H^{q}(\cal{U}, \cal{F})


細かいところはめんどう(および理解不足)なので省くが、これでようやく層係数コホモロジー群が何であるかがわかた。

 H^{1}(M, \cal{O}^*) と複素直線束の対応

さて、ようやく  H^{1}(M, \cal{O}^*) の意味が理解できるようになったので、 H^{1}(M, \cal{O}^*) と複素直線束全体の 1:1 対応を見出す作業に進める。


 H^{1}(M, \cal{O}^*) というものを見たら、とりあえず M の開被覆  \cal{U} = \{U_i\}_{i\in I}を取り、 H^{1}(\cal{U}, \cal{O}^*) を考えるのが定石のようだ。なのでこのような  \cal{U}を一つ取ることにする。このとき、

 \displaystyle c \in H^{1}(\cal{U}, \cal{O}^*)

をとると、

 \displaystyle H^{1}(\cal{U}, \cal{F}) = Z^{1}(\cal{U}, \cal{F})/B^{1}(\cal{U}, \cal{F})

であったから、 c は ある f \in Z^{1}(\cal{U}, \cal{F}) を用いて

 \displaystyle c = [f]

と表すことができる。

2つの 1コサイクル f, g \in Z^{1}(\cal{U}, \cal{F}) が同じコホモロジー類に属するということは、

 f \cdot g^{-1} = \delta h

となる 0コチェイン  h \in C^{0}(\cal{U}, \cal{F})

が存在すること。今まで群の演算は加法ばかりを扱ったので、つい  f - g = \delta h としそうになるが、 \cal{O}^*は乗法群と考えているので、 f \cdot g^{-1} = \delta h としなければならない(これでしばらくはまって時間を浪費した)。


さて 1単体 (U_i,U_j) を取ると、この上で f, gが取る値は、
 \displaystyle f(U_i,U_j) = f_{ij} \in \Gamma(U_i \cap U_j, \cal{O}^*)
 \displaystyle g(U_i,U_j) = g_{ij} \in \Gamma(U_i \cap U_j, \cal{O}^*)
である。 f \cdot g^{-1} = \delta h を満たす  hは 0単体  U_i上で
 \displaystyle h(U_i) = h_{i} \in \Gamma(U_i, \cal{O}^*)
という値を取り、コバウンダリ作用素の定義から、
 \displaystyle \delta h_{i} = h_{j} \cdot h_{i}^{-1}
となる。
これより  U_i \cap U_j上で、
 \displaystyle f_{ij} \cdot g_{ij}^{-1} = h_{j} \cdot h_{i}^{-1}
これを式変形すると下を得る。
 \displaystyle g_{ij} = h_{i} \cdot f_{ij} \cdot h_{j}^{-1}


さて
 \displaystyle f_{ij}, g_{ij} \in \Gamma(U_i \cap U_j, \cal{O}^*)
であるから、 f_{ij}, g_{ij} U_i \cap U_j上の 0 を取らない複素数値関数であるから、 f_{ij}を変換関数とする複素直線束と g_{ij}を変換関数とする複素直線束が定まる。そしてこのとき  h_{i} は 0 以外の複素数であり、
 \displaystyle g_{ij} = h_{i} \cdot f_{ij} \cdot h_{j}^{-1}
という式は、 f_{ij}を変換関数とする複素直線束と g_{ij}を変換関数とする複素直線束が同値であるということである。
よって  H^{1}(\cal{U}, \cal{O}^*) の元は複素直線束の同値類に対応する。
極限移行して  H^{1}(M, \cal{O}^*) の元は複素直線束の同値類に対応するとしてよいらしい。層係数コホモロジー群は計算するときは、適当な開被覆をとってそのCechコホモロジーの計算を行えばよいようだ。


以上から任意の正則直線束Lに対して
 \displaystyle H^{1}(M, \cal{O}^*) \simeq^{\delta} H^{2}(M, \mathbb{Z})
の元が1:1に対応することがわかった。

 \displaystyle H^{2}(M, \mathbb{Z}) \subset H^{2}(M, \mathbb{R})

とみなせることと、de Rhamの定理から
 \displaystyle H^{2}(M, \mathbb{R}) \simeq H^{2}_{DR}(M)
だった。なので、正則直線束L は 2次のde Rhamコホモロジー類と思える。これがChern類というものの話につながるそうだ。