単位円板D(0;1)の自己同型群(4)

今度こそ上半平面Pの自己同型群を求める。
テキストは発見的にAut(P)を見つけたのではなく、天下り
 \displaystyle G = \{\frac{az+b}{cz+d} \| a,b,c,d \in \mathbb{R}, ad-bc=1 \}
が与えられ、G = Aut(P)を確かめるという手順で進んでいるようだ。
G ⊂ Aut(P) は簡単に確かめられるが、逆を示すのがめんどう。これは G が P に推移的に作用していること、および、P のある1点の固定群が G に含まれれば G = Aut(P) であるという補題を用いて証明される。

GがPに推移的に作用していること:

∀z = x+iy ∈ P に対し、
 \displaystyle a = \sqrt{y},  b = \frac{x}{\sqrt{y}}, c = 0, d = \frac{1}{\sqrt{y}}
とおくと、
 \displaystyle \frac{a i + b}{c i + d} = z
となることから言える。

i ∈ P の固定群が G に含まれること:

これの証明にずいぶんと手間取ってしまった。
方針はCayley変換を介して Aut(P) と Aut(B) (単位円板の自己同型群)が同型であることと、Bの元 0 を固定するBの自己同型が  z \mapsto S_{\theta}(z) = e^{i\theta} z, \theta \in \mathbb{R}であることを利用する。
 w = \varphi(z)を i を固定する P の自己同型とする。すると Cayley変換 f:P \ni z \mapsto \frac{z-i}{z+i} \in Bによって
 f\circ \varphi = S_{\theta} \circ f
となるから、 z \in Pに両辺を作用させることにより、
 \displaystyle \frac{w-i}{w+i} = e^{i\theta}\frac{z-i}{z+i}
となる。これをwについて解いて、係数がすべて実数からなり ad - bc = 1 の形になれば i の固定群が G に含まれることが言える。これを示すのに1週間あまりかかってしまった。

 \displaystyle \frac{w-i}{w+i} = e^{i\theta}\frac{z-i}{z+i}
より
 \displaystyle \frac{w-i}{w+i} = \({e^{i\frac{\theta}{2}}}\)^2 \frac{z-i}{z+i}
これより
 \displaystyle \frac{w-i}{w+i} e^{-i\frac{\theta}{2}} = \frac{z-i}{z+i} e^{i\frac{\theta}{2}}
この変形に気がつくのがポイントだったようで、ここさえ気がつけばあとは機械的な計算により、

 w = \frac{cos{\frac{\theta}{2}}\cdot z + sin{\frac{\theta}{2}}}{-sin{\frac{\theta}{2}}\cdot z + cos{\frac{\theta}{2}}}
となることが示せる。
i を固定する P の自己同型はすべて上の形に表されるから G に含まれる。
よって、G = Aut(P) が証明された。

Aut(P)をよく知られた形で表す

 \displaystyle G = \{\frac{az+b}{cz+d} \| a,b,c,d \in \mathbb{R}, ad-bc=1 \}
で定義された群が上半平面 P の自己同型群であることがわかった。
ここで2次特殊線型群 SL(2,\mathbb{R})の元  g = \left( \begin{array}{cc}a & b \\ c & d \end{array} \right) を G の元 \frac{az+b}{cz+d} に対応させる写像
 \varphi: SL(2,\mathbb{R}) \to G
を考えると、これはSL(2,\mathbb{R})からGへの準同型で、その核は \pm I_2となる。なぜならば、 \frac{az+b}{cz+d} = z を任意のzについて満たすa,b,c,d を求めることにより、a = d, b = c = 0 となるので。


以上から

 \displaystyle Aut(P) \simeq SL(2,\mathbb{R})/\{\pm I_2\}

であることがわかった。