総復習

少し間があいてしまったが、§17のつづき。
p251から「応用」として、次の定理17.8 が掲げられている。

M: m次元 C^{\infty}多様体
 f: M \to \mathbb{R} :  C^{\infty}級固有写像
とする。固有写像とは、コンパクト集合の逆像がコンパクトであるような写像のことだそうだ。
f が臨界点を持たなければ、 \forall a,b \in \mathbb{R}について、 f^{-1}(a), f^{-1}(b) C^{\infty}微分同相。

この証明にはこれまでやった、

  • 陰関数定理
  • 正則点と臨界点
  • 部分多様体
  • 写像微分
  • 1の分割
  • ベクトル場
  • 積分曲線
  • 1パラメータ変換群

などの知識が総動員される。


テキストとは逆に、お尻の方から証明のあらすじを追っかけてみる。

 f^{-1}(a) f^{-1}(b) C^{\infty}微分同相であることを示したいわけだが、そのためには具体的に微分同相写像をみつけてやればよい。そのために 1パラメータ変換群の性質を利用する。
定理の条件から、M 上には完備なベクトル場 X が存在することが言えて、X に対応する 1パラメータ変換群  \{\varphi_t\}_{t \in \mathbb{R}}が、
 {\varphi_{b-a}}(f^{-1}(a)) = f^{-1}(b)
 {\varphi_{a-b}}(f^{-1}(b)) = f^{-1}(a)
という性質を満たす。1パラメータ変換群の性質から
 {\varphi_{b-a}}\circ{\varphi_{a-b}} = id_M
なので、 {\varphi_{b-a}} {\varphi_{a-b}}は互いに逆写像の関係になっていて C^{\infty}級。ともに M から M への写像だが、これを  f^{-1}(a)および f^{-1}(b)に制限したものが、所望の C^{\infty}微分同相写像である。


お尻からあらすじを追いかけようかと思ったが、かなり不自然になることがわかったので、頭からあらすじをメモしておく。

step1: M 上のベクトル場 X の構成

f は臨界点を持たないから  (df)_p がonto。ゆえに陰関数定理(のバリエーション)から、f は適当な局所座標をとると p の座標近傍  U_p上では射影として表せる:
 y = f(x_1,\cdots,x_m) = x_m
この座標系をつかって、 U_p上のベクトル場  Y^{(p)}
 Y^{(p)} = \frac{\partial}{\partial{x}_m}
と定義すると、ベクトル場  Y^{(p)}微分 (\frac{d}{dy})_qとなって局所的に R 上の微分に写される。
 \{U_p\}_{p \in M}が M の開被覆であることから、これに従属する 1の分割  \{f_i\}_{i=1}^{\infty}が存在し、 supp(f_i) \in U_pとなる  U_p U_i、この上のベクトル場  Y^{(p)} Y_iと書いて、M 上の C^{\infty}級ベクトル場 X を
 X = \sum{f_i Y_i}
と定義する。

step2: (かなりはしょる)

ベクトル場 X の積分曲線 c(t)で  f^{-1}(a)上の任意の点 q を初期値とするものは、必ず  f^{-1}(b)を通ることが示される。この c(t) によって決まる 1パラメータ変換群  \{\varphi_t\}_{t \in \mathbb{R}} が上の方で書いたもの。