コンパクトリーマン面の種数の有限性(7)

最後に残った補題2の証明方法の概略まとめ。

補題2

次の条件を満たす C \gt 0が存在する:
 \forall \beta \in Z^1_{L_2}(\cal{U}_2)に対し、
 \exist \alpha \in Z^1_{L_2}(\cal{U}_1),
 \exist \gamma \in C^0_{L_2}(\cal{U}_3) :
 (1) \alpha = \beta + \partial^0(\gamma) (in  \cal{U}_3)
 (2)  \parallel \alpha \parallel_{L_{2}(\cal{U}_1)} \le C  \parallel \beta \parallel_{L_{2}(\cal{U}_2)}, \parallel \gamma \parallel_{L_{2}(\cal{U}_3)} \le C  \parallel \beta \parallel_{L_{2}(\cal{U}_2)}

 \displaystyle H := Z^1_{L_2}(\cal{U}_1) \oplus Z^1_{L_2}(\cal{U}_2) \oplus C^0_{L_2}(\cal{U}_3)
とおく。このHヒルベルト空間の直和で定義されているからまたヒルベルト空間である。
次に
 L := \{\(\alpha,\beta,\gamma\)\in H \| \alpha = \beta + \partial^0(\gamma)\}
とおくと、 L Hの閉部分空間となっており、これもヒルベルト空間となる。
 Hから直和の第2番目の Z^1_{L_2}(\cal{U}_2)への射影 pr_2: H \rightarrow Z^1_{L_2}(\cal{U}_2) Lに制限したものを \piとする:

 \displaystyle \pi := pr_2|_{L}: L \rightarrow Z^1_{L_2}(\cal{U}_2)

ここで、もしも上の \pi全射であることが証明されたとする。
そうすると \piヒルベルト空間Lからヒルベルト空間Z^1_{L_2}(\cal{U}_2)への連続な全射である。すると、以下のバナッハの開写像定理というものが使えて、\piは開写像となる:

ヒルベルト空間Hからヒルベルト空間Kへの連続かつ全射な線形写像 f:H\rightarrow Kは開写像である。

もし \pi全射なら補題2(1)は直ちに従い、(2)についても\piが開写像であることから容易に示される。

そこで問題はバナッハの開写像定理および \pi全射性を示すことにおきかえられた。前者については関数解析の結果を信じてとりあえずはそのまま利用して将来学習することにしよう。残った \pi全射性の証明をフォローしてみる。

πの全射

領域U上の正則関数はC^{\infty}級でもある。そこでC^{\infty}級関数や微分形式の層について成立する既知の事実を利用する。 C^{\infty}多様体には1の分解が存在して、これを使って局所関数を貼り合わせて大域関数を作ることができたが、リーマン面の場合にはそうはいかないので少々面倒な手続きが必要となるようだ。

 \displaystyle \pi: L \rightarrow Z^1_{L_2}(\cal{U}_2)
全射であることを示したい。
 \forall b \in Z^1_{L_2}(\cal{U}_2)を取ると、
 \displaystyle b = \(b_{ij}\),
 \displaystyle  b_{ij} \in \cal{O}_X(U_{2ij}) = \cal{O}_X(U_{2i} \cap U_{2j})

と書ける。ここで各 b_{ij} U_{2i} \cap U_{2j}上の正則関数である。とくに b_{ij} U_{2i} \cap U_{2j}上の C^{\infty}級関数でもあるので、

 \displaystyle \(b_{ij}\) \in Z^1(\cal{U}_2, \cal{A}_X^{0})
である。
ただし \cal{A}_X^{0} C^{\infty}級関数の芽の層。

すでに第5章でチェックしたように、

 \displaystyle H^1(\cal{U}_2, \cal{A}_X^{0}) = 0

が成立しているから、各 b_{ij} U_{2i} \cap U_{2j}上0にコホモローグ。すなわち b_{ij}は恒等的に0でなければ、ある0 cochain \gamma = \(\gamma_i\)があって、

 \displaystyle b_{ij} = \partial^0(\gamma_i) = \gamma_j - \gamma_i

と表される。
 b_{ij} U_{2i} \cap U_{2j}上正則であることから

 \displaystyle \bar{\partial} b_{ij} = 0 (Cauchy-Riemannの式)

したがって、
 \displaystyle \bar{\partial}b_{ij} = \bar{\partial}(\gamma_j - \gamma_i) = \bar{\partial}(\gamma_j) - \bar{\partial}(\gamma_i) = 0
であって、各 U_{2i} \cap U_{2j}

 \displaystyle \bar{\partial}(\gamma_i) = \bar{\partial}(\gamma_j)
が成り立つ。

iに対して
 \bar{\partial}(\gamma_i) \in \cal{A}_X^{01}(U_{2i})
であり、 \cal{A}_X^{01}は層だから、 (\bar{\partial}(\gamma_i))_iは貼りあわされて  \eta \in \cal{A}_X^{01}(X)を定める。


つづく。