はじめての層係数コホモロジー(4)

一昨日の続き。

 \displaystyle H^1(M, \cal{O}) = H^2(M, \cal{O}) = 0
であることの証明は後でフォローすることにして事実として認めてしまうことにする。
すると

 \displaystyle H^2(M, \mathbb{Z}) \simeq H^1(M, \cal{O}^*)
が成り立つから、複素多様体M上の C^{\infty}級複素直線束の全体と  H^1(M, \cal{O}^*) が同型であることを示せばよい。
これを確認する。

id:kame_math:20061229 で見たように、変換関数 f_{ij}で決まる複素直線束と変換関数 g_{ij}で決まる複素直線束とが同値であるとは、 x \in U_i \cap U_j において 0 とならない複素数  h_i(x) があって

 \displaystyle g_{ij}(x) = h_{i}(x) \cdot f_{ij}(x) \cdot h_{j}(x)^{-1}

となることであった。この同値関係による同値類が、 H^1(M, \cal{O}^*) の元と 1:1 に対応することを確認すればよい。

 H^1(M, \cal{O}^*)とは何か

 H^1(M, \mathbb{Z}) とか H^1(M, \mathbb{R}) ならトポロジーの基本で出てくるが、 H^1(M, \cal{O}^*) はまだ定義されていない。
一般に位相空間M上の層 \cal{F}に対して
 \displaystyle H^q(M, \cal{F})
と表されるものが定義できて、これをMのq次の層 \cal{F}を係数とする層係数コホモロジー群という。
これを定義するには、 M開被覆 \cal{U} = \{U_i\}_{i\in I} を使う。まずは
 \displaystyle H^q(\cal{U}, \cal{F})
なるものを定義する。


開被覆  \cal{U} は M を覆う:
 \displaystyle M = \bigcup_{i\in I} U_i
多様体の単体的複体が三角形分割によってできた頂点を元にできていたのと同様な感じで、 U_iあるいは添字の  i \in Iを一種の頂点のように考えて以下のように、開被覆 \cal{U} = \{U_i\}_{i\in I} をもとにとした q単体を定義する:

 \displaystyle \sigma = (U_{i_0},U_{i_1}, \cdots, U_{i_q})

このような  U_iの組(順序も込みで考える) で、上のq+1個の U_i の共通部分が空でないもの  \sigma を q単体という。あるいは添字のみの順序付きの組

 \displaystyle \sigma = {i_0}{i_1}\cdots{i_q}

というような記号で同じ q単体を表すこともある。


単体的複体や特異複体のコチェインと同様に、上で定義された q単体にある値を対応させる写像を考え、それがある条件(添字の置き換えに関して交代的)を満たすものを qコチェインと呼ぶ。このとき q単体に対応させる値を、層 \cal{F}の切断としたものが層 \cal{F}を係数に持つ qコチェインである。


 \displaystyle f: \sigma = (U_{i_0},U_{i_1}, \cdots, U_{i_q}) \mapsto f(\sigma) \in \Gamma(U_{i_0} \cap \cdots \cap U_{i_q}, \cal{F})


上の  f(\sigma)

 \displaystyle f_{{i_0}{i_1}\cdots{i_q}}

と表すこともある。ただし、

 \displaystyle f_{012} = - f_{102} = -f_{120}

のように添字の互換に関して符号が変わるものとする。


例として 0 単体は、
 \displaystyle U_{0},U_{1}, \cdots, U_{q}
等となる。0 コチェインは、これらの開集合に、その上の層 \cal{F}上の切断を対応させるものであって、たとえば  U_{0}上の0 コチェイン f は、

 \displaystyle f(U_{0}) := f_{0} \in \Gamma(U_{0}, \cal{F})

という形になる。
0コチェイン全体の集合を

 \displaystyle C^{0}(\cal{U}, \cal{F})

という記号で、同様に qコチェイン全体の集合を

 \displaystyle C^{q}(\cal{U}, \cal{F})

で表す。